2021.9月 21

石川善樹氏と「ウェルビーイング」を考える|対談イベント「世なおしするべ!」#2 開催レポート(前編)

ポケットマルシェ代表の高橋博之が、現代社会の抱える問題の本質に迫り、有識者の方々と熱く対談するイベント「世なおしするべ!」。第2回は予防医学研究者の石川善樹さんをお招きして、「ウェルビーイング」について考えました。

 

このブログでは、イベントの様子を前編・後編の2回にわたってご紹介します。前編では、高橋と石川さんの対談内容をまとめました。


ポストSDGsは「ウェルビーイング」

高橋:

「ウェルビーイング」という言葉を最近よく聞くようになってきましたが、「ウェルビーイング」とはどのような状態なのでしょうか。

 

石川さん:

まず「よく聞くようになった」というところからお話ししますね。ちょうど今日、菅さんが総裁選不出馬を表明して、菅さんがどのような首相であったかについては様々な評価がなされていますが、僕は「デジタル」「サステナビリティ」「ウェルビーイング」の3つを政治のアジェンダにした点が彼の最大の功績だと思っています。

 

骨太方針と呼ばれる国の基本方針があるのですが、「政府の各種の基本計画等について、Well-beingに関するKPIを設定する」という文言が入っています。これは、政府のありとあらゆる基本計画に「ウェルビーイング」の指標を入れるという意味です。例えば科学技術・イノベーション基本計画子供・若者育成支援推進大綱など、結果としてかなりの基本計画に入っています。「ウェルビーイング」という横串をビシッと刺したんです。

 

高橋:

「デジタル」や「サステナビリティ」についてはメディアの報道でも伝わってきますが、「ウェルビーイング」はあまり報じられていないですよね?

 

石川さん:

そうなんですよ。基本計画を踏まえて成長戦略実行計画が作られるのですが、ここにも「一人一人の国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す」「今後、本実行計画を断固たる意思を持って実行に移すこととする」と、かなり強い文言が入っています。それぐらい「ウェルビーイング」の流れが、今きています。

 

この流れは日本だけでなく、世界的にも同様です。このグラフは、世界各地の本の中に、ある単語がどれだけ登場したのかを示しています。その単語の登場回数が、その時代の雰囲気を表していると言えます。

 

 

「経済成長(Economic growth)」と「サステナビリティ(Sustainability)」という言葉を比較すると、「経済成長」は戦後立ち上がり、90年代後半から下がり始めています。一方で、「サステナビリティ」は90年代後半から立ち上がっています。そして、両者が交差しているのが2009年、リーマンショックのあとです。「サステナビリティ」は、昔は植林などCSRの話だったのが、この頃から経営課題として認識されるようになりました。「経済成長」を超えると価値観ががらっと変わります。

 

では、「ウェルビーイング(Well-being)」を見てみます。ちょうど立ち上がったばかりですね。

 

 

高橋:

2030年、「ポストSDGsにウェルビーイングをぶち込みたい」と石川さんがおっしゃっているのは、「経済成長」と「ウェルビーイング」が交差するときが2030年だということなのですね。

 

石川さん:

そうです。今、国際社会はSDGs(持続可能な開発目標)で走っていて、それは2030年までの目標です。2031年からポストSDGsに設定されるテーマが何かというと、ウェルビーイングしかないと思っています。

 

ウェルビーイングとは「人々が良いと思う状態」

高橋:

日本も世界も「ウェルビーイング」の流れがきているのはわかったのですが、「ウェルビーイング」とはどのような状態なのでしょうか?

 

石川さん:

WHO(World Health Organization)設立を構想した、スーミン・スーという先生がいます。戦後、世界が平和への歩みを進めようとしていたとき、経済の話ばかりがされ、人々の命を扱う国際機関は構想になかったのですが、平和の礎は命だろうとたった一人で構想したのが彼です。

 

この先生のすごいところは、World “Disease(病気)” Organizationではなく、World “Health(健康)” Organizationとしたところです。第二次世界大戦後は病気が溢れていた時代ですが、病気の克服が目的ではなく、その先の健康を目指すと言ったのです。健康という考え方自体もまだ一般的ではなかったのですが、「健康とは、身体的・精神的・社会的にウェルビーイングな状態」と定義しました。

 

高橋:

この定義は今の世の中にピッタリですね。

 

石川さん:

そうなんです。当時は身体的な病気ばかりだったのですが、精神的にも社会的にも、あらゆる観点でウェルビーイングを目指すと言った点は、非常に先見の明があったと思います。

 

「ウェルビーイング」という言葉は、もともとイタリア語の「benessere」からきています。「よく生きる」ことを意味する概念で、「充実/しあわせ な状態」を指します。つまり、「ウェルビーイング」は「人々が良いと思う状態」なので、固定化した定義があるのではなく、時代によって変わる概念です。また、同じ人間でも若い頃と年老いてからでは定義が異なってきます。人によって様々な「良い状態」があり、本人が良いと思えるかどうかが最も重要です。

 

 

孤独はたばこよりも健康に悪い

高橋:

イギリスでは2018年に世界で初めて孤独担当大臣が設置されて、国をあげてこの問題に立ち向かっていますよね。孤独による年間の経済損失は4.8兆円などと言われています。日本でも、世界で2番目に孤立・孤独対策担当大臣が設置されました。日本政府も孤独を大きな社会問題として認識しつつあるのでしょうか?

 

石川さん:

そうですね。孤独・孤立を解消して何を目指すかというと、ウェルビーイングなんですよ。

 

高橋:

孤独の問題とウェルビーイングはつながっているんですね。石川さんは『友達の数で寿命が決まる』という本を出しておられて、「つながりが少ないと死亡率が2倍になる」「お見舞いに来る人が多いと寿命が変わる」といったことを書かれていましたが、これは明確に因果関係があるのでしょうか?

 

石川さん:

そうですね。因果関係を言うとき、研究者は非常に慎重です。たばこが健康に悪いということを言うのにも、最低20年間は研究を積み重ねています。21世紀になると、予防医学では、たばこのように個人の行動や体の中だけではなく、社会的な生き物である人間の、他者とのつながりについても研究が進みました。僕ら研究者が特に驚いたのは、孤独はたばこよりも健康に悪いということでした。

 

高橋:

それはけっこうな事実ですね。でも、そういう認識はまだ社会にはないですよね。

 

石川さん:

つながりと、もう一つ発見されたのが役割で、社会の中で役割をもっている人の方が長生きします。

 

高橋:

自分が必要とされているという感覚ですね。

 

石川さん:

例えば僕らの研究だと、老人会や自治会などで、役職のない人と、会長や副会長など何かしらの役職がある人では、役職がある人の方が長生きでした。ただ、トップはむしろ不健康で、大統領よりも副大統領の方が長生きです。

 

高橋:

塩梅の問題なんですね。役割も重すぎるとストレスになると。

 

石川さん:

ストレスにもなるけど、やりがいもあるという両面がありますね。

 

高橋:

俺、副社長になろうかな(笑)

 

 

地球環境や将来世代を含む様々なウェルビーイングへの貢献がサステナビリティにつながる

高橋:

「ポストSDGsにウェルビーイングをぶち込みたい」という話がありましたが、僕はサステナビリティとウェルビーイングはコインの表裏じゃないかと思っているんです。ウェルビーイングな人が増えた状態の社会は、人や自然との関わりの中で生を充実させていく先にあると思います。具体的には、食事、社交、愛、アート、スポーツ、農業などがそうだと思うのですが、これらはこれまでのような大量の資源の搾取や環境破壊がなくてもやれることだと思います。つまり、「我慢しろ」「抑制しろ」と言われても難しいけれど、「こういう風にした方がウェルビーイングで、その先にサステナビリティがある」と言う方が聞いてもらえるのではないかと思っています。

 

石川さん:

本当にその通りですね。ウェルビーイングは人間のものだけでないんですよ。地球環境のウェルビーイングもそうだし、まだ生まれていない子ども達も含めた将来世代のウェルビーイングなど、様々なウェルビーイングに貢献することは必然的にサステナビリティにつながってくると思います。

 

今の時代はあまりにも分業化・専門化されすぎて、全体としてどうなっているかがわかりません。仕事でも、部分の仕事をしていて、会社が全体としてどういう社会貢献しているのが見えにくいのです。そうなると、よほど理屈づけが上手い人でないと、やりがいを感じられないと思います。説明されれば理屈としてはわかりますが、体感としてはわかりません。

 

高橋:

全体の中で自分がどうつながっているか、実感できないと。分業が進んで、交換可能な生産手段に自分がなってしまうと、「自分じゃなきゃいけない」と感じられず、それはもはや役割ではなくなってしまいますね。

 

石川さん:

そうですね。つながりも、自分の住んでいる場所のすぐ近くにお墓があると、先祖代々の繋がりの中に自分がいると体感できるじゃないですか。

 

高橋:

他人とのつながりだけじゃなくて、ご先祖様との時を超えたつながりや、自然とのつながりも、見えないと体感できないということですね。

 

石川さん:

意味は、頭で理解する部分と、体験として理屈じゃないところで腹落ちする部分があると思います。

 

高橋:

そういう体感して腹落ちする部分が、今、得られない社会になっていますよね。

 

生産者とのつながりが深いユーザーはウェルビーイングが高い

高橋:

先日、ポケマルでは「ポケットマルシェ」を通じて生まれる生産者と消費者の関係性に関する調査を行いました。

 

 

石川さん:

ポケマルのユーザーの方は、先ほど話したような理屈じゃないところで腹落ちする体験がしたくて、生産者のところに行っちゃうんだと思います。最近はスーパーでも生産者の顔を出したりしていますが、あれを見て生産現場まで会いに行こうとはなかなかならないですよね。でも、ポケマルでは、実際に生産現場に行く人がいるというのが驚愕でした。

 

高橋:

そうなんですよ。勝手に行っているんですよ。旬の食べものを直接買って、最初は「お客さんと生産者」だったのが、名前で呼ぶようになって、子どもの話とか食べもの以外の会話をするようになって、人間関係ができてきて、最終的には子どもを連れて生産現場まで遊びに行くという。

 

石川さん:

こういうことが意図せず起こっているのは、ポケマルのみなさんからすると嬉しいことですよね。

 

高橋:

そりゃそうですよ!よっぽどのことがないと生産現場まで行くなんていうことは起こらないと思っていたのですが、結構起きているんですよね。ポケマルとしても、今後はそういう導線をきちんと引きたいと考えています。

 

石川さん:

もうひとつ驚いたのは、生産者さんとのつながりが深いほどユーザーの方のウェルビーイングが高いということですね。

 

 

高橋:

「自分が稼いだお金で、生きていくために必要なものを全て買っているから、一人で生きているんだ」って人もいるけれど、それは誰かが自然に働きかけて汗水たらして育てた食べものを、自分が稼いだお金と交換しているだけで、つまり生産者に生かされている。生産者も現金収入がないと子どもを育てられないので、消費者に生かされている。

 

誰かを生かし誰かに生かされているはずなのに、その「誰か」が見えないのが今の社会で、ポケマルはそれを可視化しようとしているんです。「誰か」が見えるポケマルの中では、ありがとうっていう言葉がすごく多いし、現場に行って体験することでさらに深まる。そういうことがウェルビーイングにつながっているんですかね。

 

石川さん:

もう単なる消費者ではないですよね。「うちには小学生の子どもがいて〜」という話は、生産者と消費者の会話ではなくて、人間と人間の会話ですよね。

 

高橋:

そうなんですよ。直販は生産者にとって手間と時間がかかると言われますが、そういう「間」をかけるほど人間関係が育まれて、親戚付き合いのようになって、お客さんがお客さんを連れてくるということも起こる。ポケマルですごく売っている生産者はそれが上手で、人間的な付き合いをしているんですよね。

 

石川さん:

昔は「ウェルビーイングとは可処分所得」だった時代がありましたが、今の若い人たちは給料が高いところに行きたいわけではなく、「可処分時間」や「可処分空間」、つまりオフィスに行かなくてもよいということなどを求めています。生み出された時間で何をするかと言えば、残念ながらほとんどの人はスマホ、テレビ、パチンコといったスクリーンを見てしまいます。そうではなく、人と人との触れ合いをしている人がウェルビーイングを実感していると思います。

 

高橋:

可処分空間は考えたことがなかったですが、都市と地方を行ったり来たりする生き方は可処分空間を豊かに生きていることになりますかね。

 

石川さん:

そうですね。それを全力でやろうとしているのが富山県です。県の成長戦略のど真ん中にウェルビーイングを据えて、関係人口1000万人の「ウェルビーイング」を目指そうとしています。

 

高橋:

仕事と暮らしの拠点は都市にあるけれども、週末は地方の町内会の活動に参加するというように、「関係人口」が増えていけば都市も地方も元気になると思うんです。

 

・・・

 

さて、今回の対談は「ウェルビーイング」をテーマにお送りしましたが、皆さんの中で考えは深まったでしょうか。後編では、質疑応答の内容をお届けしますので、お楽しみに。

 

対談の様子は、ポケットマルシェ公式YouTubeにて動画でも公開中です。ブログに書ききれなかった話もありますので、ぜひご覧ください。

 

 

 

ポケットマルシェでは、「持続可能な社会」の実現が叫ばれる今、私たちの考える「ありたい社会」とそこにいたる道筋について綴った「サステナビリティページ」を、コーポレートサイト上で公開しました。石川さんのお話とも重なり合う部分があると思いますので、こちらもぜひ一度ご覧ください。

 

サステナビリティ

 

対談イベント「世なおしするべ!」は今後、毎月異なるテーマでさまざまなゲストをお呼びして開催予定です。第3回は詳細が決まり次第、ポケットマルシェ公式SNSやPeatixにて告知します。

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